《第761話》『はだのよせあい』
「そしてあの時、よもや愛を語られるとは、あの時は思いもよらなかったぞ」
アルバムを捲りながら、呉葉は懐かしそうに笑みを浮かべる。
「だ、だから、あの時はそう言うつもりもなかったんだって!」
「いやいや、『こんなにも誰か一人のことを想ったのは初めてだった』など――どう考えても告白文句だろう? 他に何だと言えばよいのだ」
呉葉曰く、そのように言われて、放って置けなくなった、とか何とか。
けれども、他にも何か理由があるらしく。
「妾はな、妖怪達を纏める立場にあった。だからか、奴らが妾のためを思って何かをしてくれようとしたことも、それこそ星の数ほどある。けれども、こう、何というか、それとはまた異なる――言葉で説明するのが難しいな」
「同情?」
「そうではない。むー、何と言うか、対等な目線で言われたのが随分久々だった、からか? いや、それも微妙にずれている気がするな。どう言ったものか」
呉葉は眉間に迷路を作って出口を探していた。
でも何だかんだで婚約(結局どちらから申し込んだかは曖昧なんだけど)受け入れたのは、多分同じ気持ちだったから、なんだと思う。
「――そう、運命を感じたっ!」
「思いの外あやふやな回答!」
「仕方ないだろう! この世の全てが言葉にできると思うなっ!」
「し、締まらないなぁ」
「互いに唯一無二を感じた! これでいいではないか!」
多分だけど、唯一無二を感じた、と言う言葉はあながち間違いでもないのだろう。
呉葉はその出で立ちから望まぬ扱いを受け、挙げ句の果てにたった一つの拠り所すら奪われた上に鬼にされ。古今独歩の道を歩き続けてきた。
僕も僕で、人生に選択の余地が出来るほど知識を与えられず。彼女に会って初めて温もりを与えられて。
それは互いに、寒さゆえに身を寄せあっただけに過ぎないのかもしれない。だけど、その暖かさはそれこそ「唯一無二」で、かけがえのないもの。
だから僕らは、今も肩を寄せあっている。隣に在るのを当たり前と感じ、この先もずっと暖めあうのだ。
「――さて、そう言う話をしていたかからは知らんが、」
「うん?」
「ムラムラしてきた」
「君はまたすぐそうやって台無しにする!」




