《第七十五話》『メザシ』
「さて、貴様にとっては久々なこの家での食事だろう? 思う存分食べていくのだ!」
「何故貴様がエラそうなんだ!」
「貴様の元は住んでいた家なのだから、妾の家でもあるだろうに」
明治時代的な客間にて、僕らは夕食をとることになった。この屋敷で住み込みで働いている妖怪や人間が作ってくれるらしい。
「お待たせしました、狂鬼姫様方」
「おお、待ちわびたぞ――っ!」
「お待たせしました。メザシの塩焼きでございます」
「小さいっ!?」
お盆の上には、可愛らしいメザシが三匹。一匹ずつ、皿に乗せられていた。
ただ、それだけだった。
「ま、待て、いろいろ文句を言いたいところだが怒りを通り越してもはやどう反応してよいか分からんぞ!?」
「すみません、今日はこれしか釣れなかったのです」
「むぅ――」
「狂鬼姫様が居なくなってからというもの、食べ物も貢がれることはなくなり、何やら不作まで続き、我々はこのような感じでその日暮らし状態で――」
「貴様ァ! 妾のせいにするつもりかァ!?」
「ヒィッ!? 滅相もございませんよォ!?」
彼らの尊敬する狂鬼姫相手でさえ、小さな魚を出さざるを得なかったこの状況。――もしや、今日この家で働くヒト達、夕食無いんじゃ……。
「おっと、お客の人間様はこちらをお取りください」
「うん――?」
「こちら、メザシの塩焼き、青酸カリ仕込みになります」
「少ない食料を犠牲にしてまで僕を殺したいの!?」




