《第758話》『タネ明かしのタネ明かし』
「えっと、その――あの時、彼らはパニック状態だったわけでして……」
「ん、それはまあ、そうだろう。かの大妖怪、鬼神・狂鬼姫が暴走して周囲を破壊している、となれば、自身の身を守るためにそうなるのは、火を見るより明らかだ」
我ながら迂闊だった、と言うより他ない。百棍が暴れ出した時点で、気がつくべきだったのだ。
そこに生じた不安の声に、混ざってあの女がこっそり「狂鬼姫が錯乱して暴れている」とでも宣ったのだろう。
――まったく、そう簡単に妾が正気を失うとでも奴らは思って……思っているのだな、うむ……。
「だから、普通に声をかけても聞いてくれないと思ったので、」
「それで、退魔札を?」
樹那佐 夜貴は頷く。しかし、どちらにも危険なことには変わりない行為。流石に、何かを思わずにはいられない。
「確かに、退魔札は物理的傷とは全く異なる痛みを受ける。ある意味、覚醒させるにはうってつけかもしれん。しかし、傷ではすまない状況に陥ったらどうするつもりだったのだ」
「あ、勿論効果は弱めた上で使ったよ――?」
「――? どうやって?」
「はさみで札を三枚に切って――」
「そんな方法で効果を弱められるのか!?」
「う、うん――」
初耳だった。なんだその、必要な分だけカットして使ってね☆ とでも言うような仕様!
「それで奴らに刺激を与えて落ち着かせ、話を聞かせた、と言う事か――だが、それでもよく奴らが話を聞いてくれたな」
「彼らは皆、自分達を攻撃しているモノ、そのものは見ていなかったんです。建物から出た途端に攻撃曝されなくなっていた。それもその筈、攻撃の正体を隠すには、絶妙に破壊されない建物の死角から行う必要があるためです」
「――と言うことは、」
「はい。建物の外から、実際に攻撃している物体を見せれば、嫌でも狂鬼姫の仕業でないことが確認できます。そうしたら――皆、一気に正気に戻ってくれました」




