《第755話》『嵐過ぎ去って――』
「それにしても何故、突然皆が正気に戻ったのか――」
少し説明すれば収まるような混乱とはいえ。あれだけ大勢のしもべ達が、逃げ惑うなどなんだのしていたのだ。
何の理由もなく、ということはあり得ない。知らねばならぬと、妾は一番乗りで飛び込んできたヤツに声をかける。
「百棍。お前もよく分からん勘違いで暴れていた一人だったはずだ。いったい何があった?」
「オ?」
百棍は間抜けな声を上げて、頭上へと視線をやりながら考え始める。いつものことなので、妾も待つことにする。
――待つこと三分。
「今日ノ朝食ハ何ヲ食ベヨウカ」
「もう夕方だドアホッ!」
「ギエッ!?」
馬鹿に聞いた妾が馬鹿だった。蹴っ飛ばした妾自身の足も痛い。
仕方ない、他のヤツ――適当なのを捕まえて聞こう。
「エッ、ハ、ハイナ! エー、我々モ何ト申シマスカ――」
「――それよりお前、首がないが大丈夫か?」
「大丈夫デアリマス! 先程ノ戦イデ吹キ飛ンダダケデアルノデ!」
「微塵も大丈夫ではないのではないか!?」
「三日後ニ生エマス!」
「お前妖怪か!?」
「妖怪デアリマス!」
――じゃなくて、だな。
「で、結局どういうわけなんだ?」
「ソノ、何ト言イマスカ。人間ガ我々ノ前ニ現レテ――」
「人間?」
妾はふと、何とはなしに洞穴の入り口を振り返る。
「っ!」
今、岩陰よりこちらを覗いていた今のヤツ――樹那佐 夜貴……?




