《第753話》『形勢逆転』
「ふむぅ」
ビームは展開したまま。防御を起動したまま、ペスタは振り返って百棍へと剣を振る。
「ウゴッ!」
百棍は両前腕でそれを防御。金剛石よりも遥かに強固な腕は、大剣を受け止める。
が、百棍の表情が苦悶に歪む。それだけ、あの斬撃は重たく鋭い。
「キキーッ!」
しかし、そこへ他のしもべ共が飛び掛かって行く。自らを省みぬ様子で。
「足りませんね、手数が。流石の流石に」
その数、まさに百鬼。外という外から、しもべ達がペスタ・エプティへと襲撃をかけているのだ。
片手間で間に合わない。そう判断したのだろう。「スペード」が散開。強力な砲撃は収まり、これで穴を閉じても問題無くなった。
一方、ペスタは百棍を筆頭としたしもべ共の相手に手間取っていた。
妾は空間転移。ペスタへと隣接し、殴りかかる。
拳を、「ハート」が止める。
「どうした? 思った以上に動きが鈍ったではないか」
「っ、っ、」
敢えて意地悪く問いかけてみたが、理由は察しが付く。
周囲が、壁の残骸と言う障害物だらけなのだ。そんな場所のいたる方向から、すてみにも近い決死の攻撃が絶え間なくやってくる。
そして、通常なら戦術を変えて一度に薙ぎ払う手段を取ろうするだろうが、百棍のようにそれなりの戦力がある者、そして我らが攻撃に加わり、それこそ、ヤツにとってはそんな隙が無い状況となっているのかもしれない。
無論、油断はならない。一人ずつ潰そうとすれば、それこそ瞬間移動をかければいい。しかしそれをしないのは、膨大に時間がかかることへの懸念、移動した先にもすぐ敵がいるであろう事の手間、その対応。
そして何より、どういうわけか、狂鬼姫一派の分解を狙っていた奴にとってはもはや戦闘を続行する意味が消えてしまったこと。
それらの要素が全て集まり、この女を牽制しているのだ。
集団を預かる者として、一人で対処できなかったのはいささか不本意だが、こいつはここまでやらねば対応できないと、妾は直感した。鬼神のプライドをかなぐり捨てても、これ以上の好き勝手は許してならない。
「ここだァああああああああああああああああああああああッッ!!」
「がふぅッ!?」
そうして、ようやく出来上がった向こうの隙。妾の拳が、ペスタ・エプティの鳩尾へとクリーンヒット。歩くダークファンタジーは、音速の勢いで彼方へと吹き飛んでいった。




