《第752話》『常識外』
「ぐ、ぐぐぐ、ぐ――ッ!」
放たれた光線を、空間の穴へと飲み込ませる。しかし、あろうことか13の「スペード」から照射されるその束は、裂け目を押し広げていた。
「貴様は、一体――!」
「殺し屋です、ただの」
ビームの通り過ぎる穴の淵が、ガリガリガリガリと削られている。このままでは、ここから歪みが生じ、辺り一帯は混沌とした状況に置かれてしまうだろう。
「零坐! 静菱!」
宙に浮かされ、ずべっと畳の剥された地面に落ちた二人に妾は呼び掛ける。
「狂鬼姫様――ッ!」
「…………っ、」
だが、二人は妾へと襲い掛かってくる「ダイヤ」「クローバー」の対応に手いっぱいのようだった。ほぼその場に釘付けで、射線上より逃れることも困難なのだろう。
そして、寄り集まった「ハート」は砕ける様子が微塵もない。
このままでは、未曽有の大惨事は避けられない。
それを防ぐには、無理やりこの穴を閉じる他ない。広げるというよりも、空間の切れ目の傷をさらに広げるようなあの攻撃から避けさせるのだ。
しかしそうすれば、妾だけではない。後ろの二人も直撃を受けてしまう。
「辛くなりますよ? 耐えれば、耐えるだけ」
「く、う、ぐ――ッ」
したり顔が目に浮かぶようで腹立たしい。しかし、それを覆せるだけの余裕は全くなかった。
この狂鬼姫が――鬼神が。敗れ、崩れ落ちるだと? 背負うべき者達を背負ったまま?
自らの力を過信しているつもりはない。その筈だったが、自信が揺るがされ、覆される。
妾が、敗北する。このままでは避けようのない未来。それを、直感した――その時だった。
「狂鬼姫様ニィ――!」
「!」
一人の妖気――いや、何体もの妖気が……、
「無礼働クデネェドォッッ!!」
壁を破って百棍が。多数の妖怪を引き連れて現れた。




