《第745話》『人知を超えたせめぎ合い』
今、僕の目の前では。我が目を疑うような戦いが繰り広げられていた。
「んん、追いついて来ますか。これだけ手を尽くしても」
「見くびられては困ると、言ったはずだがな!」
切られた箇所同士で無理やりつないだかのように、様々なところから現れ大鋏を操るペスタ・エプティ。
対して空間の穴を何度も潜り抜けては、もはや見る前に動いているとしか思えない反応で対応する呉葉さん。
屋敷の中とは言え、限られたスペース内である部屋の中での戦いは、まるで台風が密室で暴れているかのよう。
零坐と呼ばれた老人や、静菱と言う妖怪は、宙に浮くトランプの絵柄に対応するので精一杯らしく、呉葉さんの命令の実行が恐ろしく困難であることが見て取れる。
「後ろだ馬鹿、ぼーっとするなッ!」
「えっ」
その声に、僕ははっと振り向いた。
血のように赤い「ダイヤ」が、その鋭い先端をこちらへと向けていた。
「お一人です、先ずは」
それはまさしく、槍。鋭い槍そのもの。容易く体を貫通するであろう凶器は、軽く僕の心臓を貫くであろう。
「ぐっ、く――!」
「呉葉さん!?」
だがそれは僕へと到達する前に、目の前に現れた呉葉さんの肩に突き刺さっていた。




