《第744話》『ノット・ターゲット』
「――ッッ!!」
妾の妖力でコーティングした腕が、閉じられようとしていた大鋏の開閉を阻害する。
危なかった。勘を頼りに先んじて動いていなければ、零坐と静菱は纏めて裁断されていた。
空間転移が無ければ、間に合わなかった。こいつ、ただ早いだけではない。
「きょ、狂鬼姫様!?」
「お前らは事態の鎮圧に回れ! こいつは妾がなんとかする!」
「思っていました。そう来ると」
「だからこそ、いきなりこの二人を狙ったのだろう?」
重い鋏の刃を、妾は振り払う。するとペスタは鋏を閉じ、それを横薙ぎに――、
背後より飛び掛かるペスタが、開かれた鋏が零坐と静菱の背中を狙う。
空間転移により対応。刃が届く寸前で、何とかそれを防ぐ。
「…………!?」
「思い出したのですよ、私。誰を殺してはいけないか」
「ほ、う――?」
「あなたです。狂気鬼です。なので、邪魔をしないでくれるとありがたいのですが」
「興味深い、な。先ほどの話を聞いていても思ったが、使者はともかく、何故妾を狙ってはならないのか」
押さえていた鋏がもう一度開かれ、また閉じ――、
鋭い剣の一閃が、静菱を狙う。
何度も同じ手では見切られると考え、空間転移を使って鬼火玉でヤツを取り囲み、一斉に襲撃させる。
それを、トランプの絵柄が阻む。ハートが受け止め、スペードが撃ち落とす。
だが、本命は遅れてやってくる。直後に、隙間を縫うように鬼火玉を展開。ヤツは羅紗切狭で、打ち払――、
ペスタの羅紗切鋏が、真横から零坐をその顎の餌食にせんと襲い掛かる。
「ちっ」
「ほぁあああっ!?」
空間転移。今まさに閉じられようとする鋏の支点を、下方から殴り上げる。
頭上で、ばつん、という鋏の閉じられる音が鳴った。
「すごいです、ここまで対応するなんて!」
「まったく――お前たちの上は、本当に何を考えているのかわからんな」




