《第742話》『淑女の微笑み』
大変永らくおまたせしました――っ!
「当ててみてはいかがでしょう、それでは?」
声。それは、部屋の外――襖の影から現れた、赤のワンピースに白のエプロンドレス。ロングのプラチナブロンド。そしてあからさまに巨大な、その背に背負われた羅紗切鋏。
ファンタジー作品の中からそのまま飛び出して来た要素に加えて、どこか幻想的ながらも物騒な物体を携えたその姿は、忘れようもない。
「ペスタ・エプティ――もう隠れるのはおしまいか? わざわざ、やられているふりをして待ってやる必要も無かったか」
「その通りにしようと思っていたのですけれどね、最初は」
ペスタはそう微笑みを絶やさずに言うと、周囲の壁が爆散した。
「――っ!」
「面白いじゃないですか。ラスボスが出てきた方が」
その片手は、巨大な羅紗切狭を構えていた。
「きっ、貴様、狂鬼姫様に何を無礼な――わひぃ!?」
「黙っていてくださいねー、お年寄りは」
スペードから、ビームのようなものが発射。零坐の頬をかすめる。
「…………!」
「それは出来ませんわ。だって、私がここに来た意味がないじゃないですか。このまま解放してしまっては」
周囲を取り囲む、先端から再びビームを発射しそうな黒いスペードたち。しかし、それだけではない。
先端の鋭い赤いダイヤたち。エンジンカッターのように回転する黒いクローバーたち。そして壁のように立ちはだかる赤いハートたち。
そして何より、ペスタ・エプティと言う存在。
それらが全て、妾を――いや、妾らをこの場に釘付けにしていた。
「なるほど、皆をなだめようとする妾達を、足止めをしに来たと。そう言いたいのか、貴様は」
「花丸あげちゃいますよ? 続けて私の目的も言い当てたりすれば」
「目的は――妾。鬼神『狂鬼姫』の孤立、か」




