《第741話》『一派を脅かす派は』
僕の目の前で、呉葉さんが妖怪達に囲まれている。
「ま、待てお前ら、落ち着、落ち着け――っ!」
彼らは、続々と集まってくる。屋敷中から、今までどこにいたのかと思わんばかりの数の妖怪達。
そして――それらは皆一様に、懇願とも崇拝ともつかない声で。まるで、悪霊の類を鎮めるために拝み奉る姿にも思えた。平安時代に名を馳せた悪霊も、こんな扱いだったのだろう。
彼らが、全て妖怪やそれに準じた力を持つ者達であるにもかかわらず、だ。
「妾はただちょっとしたいざこざを鎮めようとしただけで――ええい、零坐、静菱! ここにいる以外の者も外に集めろ! なんだこの騒ぎは! とりあえずこんな狭い部屋の中でやることではない!」
「いつもならここまでには――りょ、了解であります!」
「…………!」
呉葉さんは二人に指示を出す。この騒ぎは、普段のモノと大きく様子が違うらしい。異様な雰囲気は妖怪ならではのものとも思ったが、そうではないようだ。
「何をおいても、集めて、事態の説明をするべきだな――。っ、今度は何だ!?」
爆発音。建物がぐらぐらと揺れる。空気の流れや揺れの具合から、近くで起こったのだと思われる。
「今度のこれは妾では――、」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」
「何ッ」
悲鳴。集まって来た妖怪の誰かが、突然血を噴き出した。恐怖に慄く群れ。騒ぎの声が逃げていく。まるで、僕らがいる場所へと近づけまいとさせる力が働いているかのようだ。
「な、なんですかこれは!?」
「…………」
零坐と呼ばれた老人と、静菱と言う髪の長い妖怪。彼らは、指示の後すぐに動けてはいないようだった。
それもその筈。まるで銃口を突きつけているかのように、トランプの「スペード」が複数、その先端を彼らへと向けているのだから。
「何が、目的なのだ――?」
そして、それは呉葉さんの方にも。
総計、13の「スペード」。僕らは完全に囲まれていた。




