《第739話》『ぐるぐる巻きのかた結び』
「呉葉さん!」
僕の目の前で、頭が黒髪の包帯ミイラみたいな状態にされた呉葉さん。というか、何なの? この二人、仲間じゃないの!?
ともかく、このままじゃいけない。僕は呉葉さんに纏わりついている髪の毛を引きはがそうと試みる。
「っ固――ッ!?」
「…………」
――が、案の定僕の力でそれを外すことは叶わなかった。それどころか、ビクともしない。これ本当に髪の毛なの!?
「こうなったら、退魔札を使っ、て――!?」
荷物から札を取り出そうとして、僕もまた髪の毛に絡めとられた。
十字架に磔にされるように、両腕を吊り上げられ、足を縛られ、自由を奪われてしまう。
駄目だ、強大な妖怪には、僕程度では歯が立たない。
「く、呉葉、さん――!」
「…………」
僕は呼び掛けるが、何の返事も返ってこない。
そればかりか、頭は黒髪に覆われたまま、彼女の手脚はだらりと重力に引かれていた。
その様は、まるで首をつられた遺体のよう。まさか、死ん――……、
「静菱貴様何をやっておるのですかァああああああああああああああああっっ!!」
突如開いた襖。そうして飛び込んできた老人。え、誰このヒト!?
「ぬんっ!」
その老人が何やら印を結ぶと、手を触れてもいないのに、呉葉さんを覆っていた髪の毛が――徐々に。徐々に、解かれていく。
「ぶはっ」
「ご無事でございますか!? 零坐です! 屋敷の参上を見て慌てて駆け込んでまいりました!」
このヒトは人間のようだけれども、その内には、妖怪と同様の質を持った力を僕は感じた。異能持ちの中でも、妖気に寄った力を持っているヒト、なのだろう、か?
「零坐――」
「はい、零坐でございます!」
「貴様何を邪魔しとるかァあああああああああああああああああっっ!!」
「えぇええぇぇぇええええぇえぇええええええええええええええっっ!?」
そして、怒鳴られた。ホント、何なのこの状況。




