《第737話》『盾の後盾』
妾は自身の正面に鬼火を展開。鉄砲水のように、静菱へと襲い掛からせる。
「…………」
「うわぁ!?」
対する静菱は、自らの髪の毛を操って樹那佐 夜貴を盾にしてきた。
それだけでなく、こちらの周囲に展開していた髪の毛を、津波のように覆いかぶせてくる。守りと攻めを別々に展開する、根暗髪女の上等手段だ。
しかし、だからこそ。そんな戦術など読めている。鬼火の流れを二股に分けて人質から逸らし、妾自身は空間転移で静菱の背後に。
拳を、大、き、く――……振りかぶる!
「…………」
しかし、妾の前に無数の髪の毛の束が立ちふさがった。妾の攻撃を、これで止めようというのだ。
一方の鬼火に対しても、静菱は自身の間近、左右二方向へと髪の盾を展開する。無限攻撃・無限防御。奴の象徴たる黒髪はどれだけでも伸びるし、どれだけ焼いてもいくらでも生えてくる。
しかし、取り払えないわけではない。
「軌道をもっとよく見るのだな?」
「…………!?」
鬼火で最初から静菱を狙うつもりは無かった。では、どこへ向けて放っていたか。
言うまでもなく、妾の拳を妨げようする盾へと向かってだ。
「消し飛べ、髪束の盾!」
左右から放たれた業火が交わり、弾け飛ぶ。静菱の髪の盾は、その炎の中で塵となっていく。
「しもべ的立場であるのに言うことを聞かぬ、貴様が悪いのだぞ?」
「…………!」
振りかぶった一撃で、静菱の背中に狙いをつける。手数こそ多いが身体が、それ程に強くないこいつは、この殴打一発で倒れるハズである。
――しかし、それを思いがけぬモノが邪魔をした。
「っ、何!?」
いつの間にか。妾の拳の軌道上に、真っ赤な「ハート」が出現していた。




