《第734話》『鉄拳制裁!』
こいつ馬鹿か! いや、確かに体格の上では大きく差はあるが、先ほど妾の力は見ているハズだろうに!
しかも、一歩間違えば自分が踏みつぶされる可能性もあったのだ、どうして我が身も顧みずに飛び込んだのだ!
妾は樹那佐 夜貴を引きはがし拳を握る。向かってくる百棍は、もはや前など見えていないらしく、妾がいてもお構いなしに突っ込んでくる。
「いい加減にぃィ――……、」
「イタァイ! イタイゾォオオオオオオッッ!!」
「せんかァああああああああああああああああああああああッッ!!」
百棍の腹部に、全力のストレート。炸裂した鬼神のパワーは、我ながらすさまじく。
巨大な鬼の身体は襖と壁を幾重にも破壊し、貫き、そして吹き飛ばされゆき、遂には外壁まで達しても到底止まることは無く。
空間をいじって出来た洞穴の岸壁に激突してなお、勢いが殺し切られることは無い。巨体が打ち付けられた岩肌に百棍は深々とめり込み、ボールをぶつけられたガラスのごとく、壁には亀裂が入った。
「全く、阿呆め」
そこ! 妾自身が一番壊しているとか言わない!
空間を切って繋いで別のところに飛ばしても、その先でしばらく暴れ続ける可能性が濃厚なあやつには、鉄拳制裁が一番効果があるのだ。
故に、これで収まったはず。――それにしても一体、何が起こったのか。
目が覚めたころには、いつものごとく百棍は何も覚えてはいないだろう。となれば、樹那佐 夜貴に事態のあらましを聞くべきか。
「おい、一体何が起こっ、った――?」
振り返る。使者は。樹那佐 夜貴は。いつの間にか姿をかき消していた。
「――よもや、余波でどこぞかに吹き飛んでいったのではあるまいな?」




