《第733話》『我が身顧みず』
「僕じゃない! 僕じゃないってばァ!」
「イタイ! イタイイタイ! ヨクモォ!」
建物を破壊しながら、大きな鬼が追いかけてくる。流石鬼の首領が住む家なだけあり、こんな恐ろしい怪物までもが巣くっているとは。
僕は妖怪退治の方へ役割が寄っている。なので、退魔札の類はそれなりに操れるし、実際に退治を行った経験もある。
しかし、こんな規格外の化け物を相手するというのは、底辺戦力の僕には明らかに荷が重い。話が通じそうだと思ったのに、今や暴走する大鬼に追い回されている。
「待てェええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」
と、今まさに逃げる僕の隣に、突然呉葉さんが出現した。そして、一緒に並走しながら逃げる。
「一体どういう状況だ!?」
「わかんない、けど! 頭に何か刺さって、それで!」
「っ、あまり話しこんでるヒマは無いか! 伏せてろ!」
「え?」
呉葉さんはそう言うと、振り返って拳を構えた。見るからに華奢な、少女の握りこぶしだ。
「っ、危ないよ!」
「大丈夫だ、妾は――……わァ!?」
大鬼に立ち向かおうとする小さな少女に飛びつき、僕は廊下の途中の部屋へと跳び込んだ。
壁を崩しながら進む大鬼が、その部屋を通り抜けてゆく。
「な、何をする!?」
「だから、あんなのに勝てるわけないって!」
「あのまま放っておいたら屋敷は崩壊するし、死者が出るわ!」
「君も死んじゃうかもしれないじゃないか!」
「――っ! な、何を、妾はあの程度では、」
「戻って来たァ!?」
ガシガシと建物を壊しながら、戻ってくる大鬼。もはや猪。ただひたすらに突撃する、巨大な妖怪の姿がそこにあった。




