《第732話》『暴れる阿呆』
「なっ、何だ!?」
ズゥゥゥゥゥン――と、文字通りそう表したくなるような、音と振動。突然のそれが、屋敷中に響く。
それは今片付けをさせるためにしもべ達を呼ぼうとしていた頃に起こった。ぐらぐらと揺れ、パラパラと天井から埃が降ってくる。
「っ、隣の部屋か!?」
音は。揺れは。確かに隣の部屋からだ。その部屋には、後片付けのため一時的に使者を行かせたはず。
そして、その部屋は今、誰も使っていない筈の客間だったはず。だからこそ、そこで待機しているよう言ったのだが――、
まただ。嫌な予感がする。
「た、助けてェ!」
「!」
襖の外から助けを呼ぶ使者の声。妾は、何事かと急いで様子を見るべく襖を開ける。
「ヨ、ヨクモヤッテクレタナァッ!」
「僕じゃない! 僕じゃないよォ!」
何がどうしてそうなったのか。妾の部下の一人である百棍、もとい身体のデカいアホが、暴れながら樹那佐 夜貴を追いまわしている。
「おい、何をしているんだ!?」
「グォオオオオオオオオオオッッ!!」
頭で天井を壊しつつ、両腕で壁や襖を木っ端みじんにしながら、百棍は追いかけ遠ざかっていく。アホはこちらの言葉すら耳に入っていないようだった。
「ちィ! このままでは屋敷がマズイ! いや、それ以前に――!」
妾は部屋を飛び出し、鬼ごっこを追いかける。
しかし、百棍の言葉をそのまま聞けば、樹那佐 夜貴が何かした、と察するのが普通だが――。




