《第731話》『料理の手伝いに呼ばれた大鬼』
「オマエ、誰ダ――?」
「えっ――」
呉葉さんに無理やり押し込められた部屋。障子を開けてはいると、そこには巨大な何かが、いた。
若干屈んでいることを加味すると、身の丈三メートルはあろうかと言う屈強な大男――男? まるで金属のような身体の色をした人物で、その顔はまさしく鬼……、
「狂鬼姫様ノ屋敷ニ入リ込ンダ賊カ!? 賊! 賊ナノカ!?」
「え、え、えぇ――?」
あからさまに狼狽えた様子のその姿。――多分、こんな姿でも下っ端なのだろう。すごく、僕に似て気弱そうだ。
「え、っと、賊、と言えばそちらからするとその通りなのんだけ、ど、」
「ヤッパリ賊!!!」
ズドォン! と、おっきな鬼が両手を畳に。――訂正。ちょっと強い妖怪っぽい。今ので下は大きく沈下し、さらに衝撃で周囲はぐらぐら。天井の板がバラバラ。なお、僕は浮き上がった模様。
「だ、だけど、賊は賊でも、いい賊だよ!」
「イ、イイ賊――?」
驚いて、変なことを言ってしまう僕。なんだろう、「いい賊」って。
「ナラバヨシ!」
「えっ、いいんだ――」
こう言う言葉を使うのはちょっと気が引けるけど――流石の僕も、「アホ」と言う言葉が頭に思い浮かんだ。見た感じ、先ほどの女の子達とは違う妖怪のようだが。
「えっと、じゃあ僕は表へ出るから――」
「ウム! マタナ、イイ賊!」
僕はその大男に別れを告げ、その部屋から出ようとする。とりあえず、待っているだけなら、外でも問題はないだろう。
そんな時だった。
「ギエエエエエエエエッッ!!?」
悲鳴に、僕は振り返る。すると、大男の頭にいつの間にか何かが刺さっていた。
それは、トランプの絵柄――ダイヤだった。




