《第729話》『罠』
「っ、何だ――ッ」
「!!?」
僕らの、丁度真上の天上が、バキバキと音を立てて崩れてくる。
それは、何の前触れもなく突然起こった。流石に天井を見ていたわけではないが、傷んでいた、などと言うことは無いだろう。
木の板、木片が、降り注いでくる――……、
「馬鹿者、そのまま頭を打ち付けるつもりか」
「――?」
しかし、痛みはない。気がつけば、呉葉さんが僕に密着、覆いかぶさっていた。
素直に、お礼を言いたい。――けれども、身を挺す程、大袈裟と言う様子も……、
「誰の仕業か知らんが、岩を落としおった」
「えっ、岩!?」
起き上がる呉葉さんの後頭部から、何かがゴロゴロと転がり畳の上に制止する。
それは、見紛うことなく岩だった。一抱えほどの、いかにも重そうな物体だ。――断崖であれば、違和感はなかっただろう。
「――って、だ、大丈夫なのそんなの受けて!?」
「妖怪を舐めるでない。こんな岩ごときでは、瘤すらできん。――っ!」
そう言う呉葉さんは、突然の一瞬、顔をしかめた。
それは、まさにいきなり走った痛みに思わず表情を変えてしまった、と言うような。
「ほ、ホントに大丈夫?」
「今のはちょっと虫歯が痛んだだけだ。後頭部などではないぞ」
「虫歯!? いや、でも――」
「何なら頭を確認してみるか?」
そう言って呉葉さんは僕に後ろを向けると、長く白い髪をまくって見せた。
うなじ。絹の糸のような艶やかな髪の生え際。シミ一つなく綺麗な、きめ細やかでミルクのような色合いの首筋。
「…………」
「ほれ、何ともなっておらぬだろう?」
「え、あ、う、うん、そうだね」
「どした?」
「い、いや、何でもない、よ?」
――何だろう。今、ちょっとどきっとした。気がする。なんだろう、この気持ち。




