《第725話》『工作の締め』
妾は(半ば強引に)樹那佐 夜貴に後をついてこさせ、その最中考える。今しがた、普通に質問した際の様子を思い返しながら考える。
今のこの少年の態度、やはり狂鬼姫を退治しに来たことに疑いようはない。
それにしては大した力もないところを見ると、当初の推測は概ね間違っていないのだろう。この少年を火種とし、こちら側へと因縁をつける。何とも絵にかいたような、この手の組織のやりそうな回りくどい手だ。
何故奴らがそんな手に出なければならないか、と言う理由はおそらく二つ。
一つは、我々狂鬼姫一派が人間に本格的な害を及ぼす事例が、現代においてほぼ無いため。
ひと昔前であれば、部下共が勝手をやらかすこともあったが、せいぜい今は、極々一部の末端が、万引きやカツアゲ、ゴミのポイ捨てをする程度。当然それらはよろしくないことであるが、人命にかかわるような事件はまるで起こしていない。
そしてもう一つ。大きな実績を上げたくなった。
その理由の方は不明だが、増長し、欲にかられた人間が手柄を急いだのだろう。
勿論、我らがそう簡単につぶされるわけがないし、そうされるつもりもない。ただ、何らかの理由でそれが必要に迫られた状況で、大きな集団でありながらおとなしめである狂鬼姫一派の力を誤認していたのが、奴らの目に留まった原因だと推測できる。
いずれにせよ、この目の前の何も知らぬ少年は、ただのスケープゴートなのだ。
あんまりと言えば、あんまりであろう。組織への忠誠心、あるいは立場を利用されて、死ぬとわかっている現場へと向かわされる。こんな惨たらしい事、許されてはならない。
妾は考える。向こうの甘々すぎて逆に対応に困る、この事態の対処を。
きっと、生贄の子羊以外にも、起爆するための材料はそろえられているに違いない。おそらく樹那佐 夜貴の死亡は、最後の発破装置。
――本当に、人間とは面倒なものだな。




