《第723話》『予言』
「飽くまで牙を剥くというのであれば、妾がうっかり手加減し損ねてしまう覚悟も出来ている、と言うことだな?」
「どうでしょう? うーん」
「貴様、このままグダらせる気か」
どうにもこうにも、こいつの態度は宙に浮いていて面倒くさい。やるならやる、やらないならやらないではっきりしてほしい。そして、そのうっとおしい殺気をとっとと収めてほしい。
「あっ!」
「――今度は何だ」
「思い出したことがあるのです。もう一つ」
そう言うなり、ペスタはそのやたら長大な鋏を背中に背負った。いったい、どうやって背中に張り付いているのやら。
「なので、手を引きます。一先ずは」
「いい加減、押しつけがましいマイペースに辟易しているのだが?」
「言い渡されていたのです、忠告してこいと。もし、ターゲットを守るようなら。誰かが」
「忠告、だと?」
零坐め、また何かややこしいことを考えているのか? 妾は呆れて腕を組み、聞くだけ聞いてやろうという姿勢を取る。
「『その少年は狂鬼姫に終焉をもたらす』、だそうです。依頼人が仰るには」
「…………」
「どうされました? ダンマリですが」
「いや? ありきたりな文句だと思ってな」
「そうですか」
そう言うと、ペスタは樹那佐 夜貴には見向きもせずに部屋から出ていく。――その鋏の横のはみだし方で、よく引っかからずに行けるモノだ。
「では、私はこの場を離れます。命は惜しいので」
誠に馬鹿馬鹿しい予言を残し、本当にその場からいなくなる歩くダークファンタジー。
何とも面白みのない作り話。狂気鬼が終わりを迎えるだと? 零坐のヤツ、そんなモノでこの妾がひるむとでも思っているのだろうか?
――と、この時まで妾は思っていた。




