《第719話》『ファンシーな殺し屋』
画面にたくさんの女の子のイラストが表示された時、それは起こった。
「っ、伏せろッ!」
その大声と共に、僕は押し倒された。すぐ横に座っていた、呉葉と言う真っ白な妖怪の女の子に。
――ふわりと漂う、やさしい香り。僕の頭を、彼女の腕が抱いている。
「な、な、何――?」
「――また、厄介そうなヤツが現れたものだな」
何とか頭をよじって周囲の状況を確認する。あまりにも突然の事態過ぎて、何が起こったのかまるで理解できていないのだ。
そうしてなんとか、頭を横へ向ける――……、
パソコンの画面が真ん中より上から、ずるりとズレた。
「外してしまいました。気配は消していたつもりなのですが」
ひとつ遅れて、まるで型抜きのように四角く壁がせり出してくる。それはごとりとこちら側に倒れると、机と壊れたパソコンの上にのしかかってくる。
――僕は、女の子に抱えられたまま後ろに跳び下がらせられたため、一緒に押しつぶされずに済んだ。
今は、いわゆるお姫様抱っこをされている。
「貴様、何者だ?」
「ターゲットを殺すことを生業にする者ですよ、私は。殺し屋と呼ばれる職業です、いわゆる」
その声は、少女の声。宙に浮いたような、掴みどころなく、軽やかで、そして歌うような声。
「なーんとなくだが、零坐の差し金のような気がする」
「そう言う事、興味ありません。誰が依頼したとか。名前だとか容姿も知りません、依頼者のこと」
「仕事をして、金さえもらえればどうでもよいと?」
「面倒ごとに巻き込まれないですむじゃないですか。そのほうが」
「――やれやれ、アイツも面倒臭そうなヤツを雇ったものだな」
壁の向こうには、赤のワンピースに真っ白なエプロンドレスを着た、ぱっと見は十代後半の女の子。
プラチナブロンドの髪と、エメラルドグリーンの瞳はまるで宝物のようだが、そんな輝きを台無しにするかのように、右目の下にマーカーを引いたような赤い線が三本、入っている。
「男の子だけなのですよね、ターゲット。嬉しいのですが、差し出していただけると」
そして何よりその右手には――彼女の身の丈の1・5倍はあろうかと言う、シルバーの羅紗切狭が握られていた。




