《第715話》『けっしてそんなつもりは!』
「えっ、僕の名前――?」
唐突に。実に唐突に、名前を聞かれた。
陰陽道の観点より、他者に本名を伝えることはタブーである時代も、大昔にはあったという。この鬼はそう言う時代からずっと生きてきたという話だし、その手のモノを媒介とする術を身に着けていてもおかしくはない。
多分、人伝に聞いたとしても、効果があったはず。
やはり、あの手この手で優位に立とうと――、
「ちなみにわたくしの名前は呉葉と申しマスワ!」
普通に自己紹介して来た!?
え、いや、えっと、まあ多分この娘は手下だろう、し――? それに本名である確証も、も、も……、
――? 「呉葉」と言う名前、どこかで聞いたことがあるような?
「あ、ちなみに名前で縛ってどうこう、と言うことはありませんのでご心配ナク!」
しかもまだ何も言ってないのに懸念事項を口にした!?
ど、どうなんだろう、これは――まわりまわって、やっぱり罠? いや、
「ちなみにちなみに、どこにそんな証拠が――?」
「忘れもしますワ。地味だし」
「昔のヒトに謝ってきた方がいいんじゃない!?」
特に、陰陽師系あたりに! 絶対そんなこと言ったらいろんなヒト怒る! まあ、確かに地味――じゃない、派手さはないイメージあるし、少し陰湿な雰囲気も、
「それはきっと各方面に怒られますワヨ」
「最初に言いだしたの君だよ!? 後何!? 僕の心が読めるの!?」
「直感とは、時に最強になるのですワ」
「もうこの話ナシナシ! 僕らは何も貶めてない! そう言う事で!」
「と、言うところであなたのお名前を、ドウゾ!」
「樹那佐 夜貴ですよォ!」
と、いうカンジで。流れるような自己紹介をしてしまった。
もはや、直前の葛藤とか何の意味もないよね! いえ、無かったことにさせてくださいお願いします!




