《第714話》『元人間故か実は毒もちょっとは効く』
青酸カリで腹が痛い。――それはともかく。
――しばし、こう、やり取りしていて思う。この男からは、まるで「その気」が感じられない。いや、感じられなくなった。
どちらかと言うと、まるで様子を見ているような、そんな雰囲気。最初は、少々何者か(と言っても鬼神・狂鬼姫しかいないのだが)を害そうという気配が見て取れた。その身立てに恐らく間違いはなかっただろう。
しかしいつからか、それが消えうせている。
別に、殺気が感じられないと言うのは不思議なことではない。手練れと言うのは、それを隠す術を心得ているもの。それだけで判断はつかない、と言うことも多い。
けれども、どれだけ殺気を絶ったつもりでも、立ち振る舞いやらなにやらは、隠し通すのが難しい。自然と出てしまう、とかそう言う類の話ではなく、身体運びがそうせざるを得なくなるし、どうしても経験上、そう言う事は分かってしまう。
だから、それがない。と言うことは、本格的に戦うつもりがない、と言うことになる。少なくとも、今すぐどうこうするつもりがない、と言う程度には。
先ほどは毒を食わせようとしたり、実はこっそり抜き手をしようとして躱されてしまった(しかも食べ物を箸からぽろんと滑らせたように見えるというオマケ付き)が、ここはしばらくこちらも様子を見るべきかもしれない。
妾とて、相手の戦力うんぬん抜きにしても、争いになるのは避けたいのだ。互いに不干渉! 程度には話をつけたくもあり、それのためを思うと、やはり何事もなく帰ってもらうのが一番である。もとより、この歓迎作戦はそれが根底にある。
――いっそ、ここらでこの男と仲良くなってしまおうか。
歓迎作戦のおかげで心情にも変化が訪れたのだろうか? 友好関係を結んでおく、と言うのは実際悪い話ではないだろう。いがみ合いが争いを生むのであれば、そうならぬようにする。当たり前のことだ。
そのための一歩として、友人となる。悪い話ではない筈だ。
――よし、まずは名前を聞こう!
「ところで、あなた。お名前は何とおっしゃるのですか? オホホのホ」




