《第713話》『末端とは言え、僕も考えたりする』
「だ、大丈夫? なんだか、すごく難しい顔してるけど――」
「い、いえ、何でもありませんわ! オホホホホ」
その割には、かなり汗をかいているように見える。まるで彼女だけ、夏の日差しのど真ん中に立たされたかのようだ。大丈夫だろうか。
それにしても、狂鬼姫が一向に現れる気配がない。
先ほどと違って周りがバタバタ騒がしくは無くなったし、それなりに体調はマシになってきて考える余裕は出てきているが、そうして考える余裕が出てくると、いつまで経っても現れないことに、不安を覚える。
ひょっとして、いまお留守だったり――?
――あり得なくもない。いくら僕でも、待ち構えていたかのように出てきた周りの妖怪達を見れば、彼女らが僕の来訪を見越して配置されていた事が分かろうと言うもの。
あまり考えたくはないが、どこからか情報が漏れていて、対策をされていた、と考える方が自然だ。ただ、戦力に関してはきっとサーチしきれず、念のためを思って、主を逃がした――?
けれど、それにしてもおかしいことがもう一つ。何故、僕は持て成されているのか。
実を言うと、半ば無理やり押し込まれて、料理を幾らか食べてしまった。お酒に関しても同様で、しかし対策されていると考えれば、そこに毒が仕込まれていてもおかしくはない。
しかし、今のところそんな様子は感じられなかった。彼らからしてみれば、僕は一刻も早く消し去っておきたいハズ。それにもかかわらず、せいぜい酔い殺されかけたくらいで、そこに明確な悪意は感じられない。
――ここから考えるに。もしかすると彼らは、僕らと争う意志はない、と言う事を示しているのだろうか?




