《第711話》『零の使命』
「ま、全く、狂鬼姫様は相変わらず何をお考えなのか――っ」
わたくし――もとい、我が一族は。人間でありながら、古来より狂鬼姫様にお仕えしている。
先日バカ息子は、それを全く理解しようとせず外へ出て行ってしまったが、たとえ守るべき主に邪険にされてしまっても、その使命に変わりはない。
――と、狂鬼姫様が最近はまっているアニメなるものの商品が所せましと置かれた店のど真ん中で思う。
飛ばされてこんな意味の分からないところにいるわけだが、周囲からやたらめったら視線を感じる。
外ではめっきり和服を着る者などいないと聞いたので、恐らくそのせいなのだろう。確かに、そんな服装なのはここにわたくしだけ。
――狂鬼姫様に以前言われた、「古臭い」と言う言葉を、否が応にでも思い出さざるを得ない。一人ここで、時の流れに取り残されてしまったように。
――いや、今そんな意味のないことを考えても仕方ない。
わたくしには、狂鬼姫様とわたくしも含むそのしもべ達を守る義務がある。
そうでなければ、わたくしが存在する意味がない。そのために、零から九の数字を循環させて世代を継いで来たのだから。
「もしもし。わたくしです」
わたくしは、携帯電話を取り出してある者へと電話をかけます。
敵が刺客を送り込んでくるという情報を聞いて、対策をしていたのは狂鬼姫様だけではない。わたくしもまた、独自の手段をあらかじめ用意していた。
「ええ、そうです。あなたの出番です。狂気鬼様に仇名そうとする不届き者を、抹殺していただきたいのです。ターゲットの特徴は――」
例えそれが、狂鬼姫様の怒りを買う事になろうとも。それがあの方のためであるならば。わたくしは、喜んでその怒りを受け入れましょうとも。




