《第706話》『戦わずして勝つとはこのことよ』
「くっくっく、やっとるやっとる」
妾はふすまの隙間から、こっそりと使者の様子をうかがう。
ロリコンから熟女スキー、その他もろもろの趣味嗜好に合いそうな外面要素を可能な限り網羅し、一人一人設定を考え徹夜三日。よって、いかなる男であっても目に留まらぬ女子はおらぬ筈。
総勢何人かは覚えていないが、最低でも三十人。変化の素養ある者に設定どおりに化けさせ、チェックも怠ることなく丹念に。しかし、当然厚遇がこれに終わるつもりは無い。
「――狂鬼姫様、やはりこんなことをしていては舐められるのでは……」
「しつこいなお前も。確かに侮られることは場合によっては皆の安全にかかわる。この一派は、妾のカリスマを持って保たれているからな」
「横文字使わんでくだされ、分かりません」
「雰囲気で察さぬかド阿呆! とにかく、権威で周囲を威圧しているのは事実だが、かと言ってこれ一度で地に落ちる程度の名ではないつもりだし、そしてそのような事態に陥らぬような手も考えている!」
色仕掛けの次は料理だ。酒だ。タイやヒラメを舞い踊らせる事は出来ぬが、楽しい時間を、煩わしい世俗の全てを忘れて過ごせる程の催し物も用意している。
それらを考案するに当たっては、ゆうに一週間を要した。流石に合間合間睡眠はとったが、もてなし方を調べるためにタブレットとにらめっこし続けたせいで、目が痛い気がする。
料理一つ一つも事前に作らせ、あるいは妾自身が作ってみたり(大半炭になったが)、ふさわしいかどうか見極めもした。
即ち、こちらの策は完璧なのだ。
まるで今から、ご満悦で帰っていく様子が目に浮かぶよう。そうなれば、全てこちらの計画通り。
――なぜかその使者、今はビミョーな顔をしているが、すぐにその顔、満面の笑顔に変えて見せよう。
この狂鬼姫の戦い、しかと目に焼き付けるがいい――!




