《第704話》『これぞ必殺、お客様接待――ッ』
「フッ、来たようだな」
玄関付近で襲撃者がしもべ達によってもみくちゃに。妾はその様子を、我が屋敷の二階の窓から見下ろしていた。
妾――もとい優秀な密偵達は、この国の秘密組織が、妖怪や異能持ちを纏める鬼神「狂鬼姫」の討伐を目論んでいることを突き止めた。
当然、多くの者達を守る立場にある妾は、それを是とすることはできない。よって情報を手にし次第、その対策を決行。その策と言うのが、これだ。
密偵(引きこもりの根暗女)が調べたところによると、十代後半の男が乗り込んでくるという。なれば、女に化けさせたしもべ達によって骨抜きにしてしまえ、と言うのが妾の対応策である。
「今のうちに、殺してしまいましょう――!」
「零坐、まだ言うか」
「我らが鬼神に仇名そうと言う者共の一味ですぞ? その死を持って、我らに刃を向けることの恐ろしさを、思い知らせてやるのです!」
「何度言えばわかる。それは間違いなく『悪手』だ」
対象の力量に関する情報はまるで手に入らなかったが、多くのしもべを抱えていることは向こうも分かっているハズ。ほとんど伝承にも残らぬ程秘匿され続けてきたとて、相手が裏世界では比類なき実力・影響力を持つ狂鬼姫となれば、一人で仕掛けに来ることなどありえない。
即ちこれは、向こうがこちらに軍勢を送り込むためのやたら回りくどい口実づくりであると推測できる。
大方、「調査を行っていた非戦闘員が殺された」「やましいことがあるから隠しているに違いない」「無抵抗な人間を問答無用で殺す鬼畜」と言うレッテルを張るつもりだったのだろう。まかり間違っても殺せば、何も知らない下っ端が、歪曲した情報を信じ、大挙して押し寄せてくる。
そんなことになれば、戦争は避けられない。妾個人の殴りあいならどうと言うことは無いが、多人数対多人数となれば、互いに大勢死者が出るのは明白である。場合によっては、これに便乗した、庇護下以外の者共が、いらん騒ぎを起こす心配もある。
だが、そんな下らん策に乗る妾ではない。
もう一度敢えて言うならば、妾は多くのしもべ達を、平穏を守るために存在している。
つまり、そんな戦争は、まかり間違っても起こさせるわけにはいかんのだ。
なので、これでもかと言うほどもてなし、反抗する気を起こさせ無くして、使者を返してやる。口実が無くなれば、向こうも根拠なく言いがかりはつけられまい。実被害さえ出なければ、どうとでも何事もなくできる。
そして、影響力の程は知らんが、使者とやらが擁護に回れば一石二鳥!
「――さて、平和維持ナンタラとやらの使者よ、この妾、鬼神『狂鬼姫』のもてなしを、心行くまで楽しんでいってもらおうか……!」




