《第703話》『色仕掛け!』
「な、なにこれ――?」
洞窟を通り抜けていった先、突如として現れた空間。そのスペースいっぱいに立てられた巨大な屋敷。それは様々な時代の建築様式が入り混じった、不思議な建物。
そんな風変わりなキメラ屋敷の入り口――平安時代や鎌倉時代を思わせるような形状の大きな玄関の上に、掲げられている看板。
「歓迎って、どういうこと――?」
人間。人間――そこには、人間を歓迎するという旨の言葉が記されている。
僕、間違えてないよね? ここ、鬼神の住処だよね? ちょっと変わったヒトのお家じゃないよね?
いや、住んでるのが人間だったら「人間」とはわざわざ書かないだろう。少なくとも、ここを住処にしているのが人外の何かだということは想像がつく。
それに、わざわざ書かれた「お一人様ご一行」。――いや、一人なのに一行とか意味が分からないけど、この、「あなた一人のためにこの看板をつけました」と言うカンジがこれでもかと醸し出された板。
それは明らかに、平和維持継続室からの使者を予見したモノだ。
――つまり、僕がかの鬼神を退治にやってくるということは、既に読まれている、と言うことになる。
敵が来るのにぼーっと待っている者はいない。となれば、この屋敷の中に多数の罠が張り巡らされているのは明白である。
僕は背負ったリュックサックから、退魔符を取り出す。妖怪に対する通力が込められたお札のようなもので、妖気をエネルギー源として動いている彼らのそれを中和し、活動停止にさせる効力を持つ。投げれば妖気を探知して追尾する機能も付いている。
複数枚取り出して、いつでも放てるように準備――……玄関が、開く。
「よぉうこそおいでくださいまぁしたぁ~!」
「え?」
「あぁなたがお越しになるのぅおうおうおぅ、」
「おォまちしぃておりましぃ~……、」
「え? え? え?」
「「「「「「「たァああああああああああああああああああああッッ!!」」」」」」」
開いた玄関から、たくさんの女性がこちらへ駆けてきた。




