《第702話》『電飾とかもついてる』
「この先が――鬼神・狂鬼姫の住処……、」
平和維持継続室の任務にて派遣された僕、樹那佐 夜貴。スマートフォンにインプットされた地図を見ながら、とある山の洞穴の前までやってきていた。
大した力はなく、そして道具に頼った退治方法しか知らない僕。何の間違いか、「鬼神」と呼ばれる強大な存在を倒すという、トンデモ荷が重い任務を任されてしまった。
鬼――人間が恨み辛みを募らせ、邪気と妖気を溜めこんだ末に成るという呪いの権化。
その中でも、「神」とまでつくような鬼は、それこそ人の信仰を集めるような神にまでその力は匹敵、凌駕し、災厄を振りまくという。
つまるところ、人間の世の太平のために作りだされた平和維持継続室としては、見逃すことが出来ない存在であり、当然討伐のために人が派遣されるのは当たり前のことである。
しかし、どう考えてもこの人選は間違いでは!?
そりゃあ当然、僕だって世の平和のために働きたいし、その礎となる覚悟はできている。
けれども、僕には圧倒的に力が足りない。確かに道具で幾らか誤魔化せはするが、それは相手が低級妖怪である場合の話。
言うなれば、将棋で言う「歩兵」、チェスで言う「ポーン」の立場である、と言うのが僕だ。「鬼神」などと呼ばれるような巨大な存在を相手にするならば、それこそウチの事務所のクラウディア・ネロフィ先輩等の方がよほど適任だろう。
しかし、僕は既に派遣命令を受けてしまった。ならば、それに従う以外に道はない。
洞穴の中へと、僕は進む。縦2m、横もそれくらいか、少し短い程度の、小さな穴。
奥は深く、一寸先は闇。見通せない奥行きは、それだけで僕の不安を煽るのには充分だ。
静寂――……真っ暗な中、スマフォの明かりだけを頼りに、先へ、先へと。
心臓の鼓動だけがBGM。リズムをとるのは地面を踏む足音。
そうして進んでいると――何の前触れもなく、僕の視界が強い光に包まれた。
『歓迎! 人間お一人御一行様!』
――そしていち早く映った景色の形は、そんな文字が掲げられた看板だった。




