《第701話》『今は懐かしき――』
「ただいま~……? 呉葉? 何してるの?」
「ん? おお、夜貴! お帰りだ。ちょっとアルバムの整頓をしていたのだ」
帰宅すると、リビングの床の上で呉葉がいくつかの冊子を広げていた。
台所からはお味噌汁の出汁の香りが。夕食の準備はおそらく出来ていて、僕が帰ってくる時間の合間に、その整頓をしていたのだろう。
しかし――どうにも本来の目的が頓挫した様子が見えるのは僕だけだろうか?
「まあ、お察しの通り。見ていたらどうにも、な」
「これ途中から横道に逸れるアレだ――」
「ちなみに、今見ていたのは、夜貴と妾が出会った時のものだな」
「この写真、どうしてこんなことになってるんだろうね!」
いくつかある中で僕が注目した、一つの写真。その中央には慌てふためく僕。そして、周囲を取り囲むのはたくさんの女のヒト達――いや、変化した妖怪達だ。
「――この写真だけ破り捨てようか」
「思い出! 一応! こんなのでも一応、思い出だから!」
「あの時はノリでけしかけたが、今見るとむかむかしてくるぞ!」
「思いっきり自分が原因じゃないか!」
あの時の僕は、呉葉とはまだ結婚してなくて。むしろ、平和維持継続室の上層部に言われて退治をしに来た立場にあった。
そんな、決して穏やかな切っ掛けではなかったのに、今はこうして二人、共にいる。
狂鬼姫と呼ばれる鬼神と、組織におけるただの下っ端だった僕。
――思い返しても、実に奇妙な出会いだった。




