《第697話》『鬼神の意地以上に』
「――呉葉」
「っ! な、なんだ、よた――……あいたっ!」
いったん試合――とも呼べぬような無法状態のビーチバレーを中断。呉葉の元へと歩いてゆき、そしてでこぴんする。
「な、何をする――っ!」
「妖力とか使うの無しって、言ったでしょ?」
「っ! だ、だから、突然砂浜が崩れただけだと、」
「風もでしょ」
「うっ」
地盤沈下は、その下の砂を空間転移で他所に。風はどこかの空気をこれまた空間転移で移動させて気圧の変化を起こして吹かせ。
あの力は、割と万能だ。天変地異さえ起こせるので、それくらいは容易なのは既にさっき証明されている。
「だ、だが、妾とは限らんだろう! そこの旧・妾だって同じ力を持っているぞ!」
「おい」
「嫁を疑うとは、な、何事だ! 妾は何もしていない!」
僕がため息をつくと、呉葉はびくりと肩を震わせた。その様子が、既に認めているようなものだ。
疑うとかじゃなくて、呉葉の一挙手一投足を、僕が分からない筈がないのに。
「なんでこんなことしたの? 使ったらだめって、いったでしょ?」
「むぅ――」
「…………」
「――負けたく、なかったのだ」
「それは分かるよ? けど、そんな事されたら、ルール違反で呉葉の負けにせざるを得なくなるよ。ルールあってこそのスポーツなんだから」
「わ、わかって、いる、とも――う、あ、う……、」
鳴狐相手に大人げなくなるところは、前からあった。それでも、今日のこれはちょっとどころじゃなくやり過ぎである。
「――負けたく、無かったのだ」
「それは今聞い――」
「――このいつもと違う場所で。夜貴と一緒に居て、その目の前で……負けたくなかったのだ」




