《第696話》『鬼工的天変地異』
僕の目の前で、信じられない出来事が起こった。
「と、突然足元が崩れ落ちるなど、想定外じゃ――っ」
「図ったな!? 図ったじゃろ! 球を打ち返すタイミングで、どうして砂が崩れ落ちるんじゃ!」
「あれだけボコボコ砂浜を打ち抜いていたから、そう言うこともあるだろうなァ! あるだろうよ!」
「…………」
呉葉のサーブ、それをレシーブしようとした鳴狐。ここまでは、ビーチバレーによくある絵面。
球の勢いも、ごく普通。何もかもが、普通。そうして試合が普通に運んでいくのだと、僕は思っていた。
思っていた矢先、鳴狐の足元が陥没した。
さあどう受けるか。鳴狐がボールに触れようとした瞬間、砂浜が地盤沈下を起こしたのである。
それは、あまりにもタイミングが良かった。突然起こったそれに、鳴狐が二人そろって生き埋めになったことは言うまでもない。――すぐに這い出てきたけど。
「貴様のドジさ加減が招いた事態だろう? ボールを受けられなかったから、こちらの一点だ!」
「な、納得行かぬ――っ!」
「ならば砂浜を直してもう一度やろうじゃないか!」
そうして、もう一度呉葉がサーブ。
「――次は突然地面が凹んでも大丈夫なよう身構えておくのじゃ」
「そぉれ!」
下段より放たれるボール。強く打てば外に出てしまうため、やはりその勢いは通常の速度。
「次は先ほどのようにいかぬ! それ、もう一人の余よ! しくじるでないぞ!」
「当然! さぁて、どう料理して――……っ!?」
鳴狐がボールに触れたその直後。ビュオっと風が吹いた。
「あ、あ、ああああああ!?」
風に流されるボール。まるで台風に匹敵する突風に、ビーチボールはコートの外へと流れて行ってしまった。




