《第694話》『また怪しくなり始めた雲行き』
「まさか、だろう――!?」
気がつけば、妾達が7点を一方的に取られ、コートチェンジする羽目になっていた。
「一体何をやっているのだ現在の妾!」
「や、やかましい! ちょっと調子が悪くなっただけだ!」
「あの僅かな時間の間に突然体調不良になるわけなかろうが――!」
「うるさいうるさーい! なったのだ、なったと言ったらなったのだ!」
パワーで押せば、いかに駄狐と言えど対応できるわけがない。実際、レシーブ側のこちらのアタックに、ヤツはあたふたしていた。
それがどうだ、まさか太陽の光程度にここまで苦戦するとは! いや、それだけではない。ボールそのものの打ち方に、妙な変化が――、
「フン、貴様にレシーブを任せておくことはできぬようだ。再び、妾が行おう」
「な、何ィ?」
コートチェンジで、太陽が背になるこちら側になったらまたボコボコにしてやる。そして、貴様ごときのサーブなど、環境要素が無ければ容易く受け流せると駄狐に証明してやる。
そう思った矢先の、旧・妾のこの発言である。
「社会と言うモノはな、失敗に厳しいのだ」
「冷静に考えればただの引きこもりな貴様が社会を語るのか!」
「かつての貴様と違い、妾は妾で、この今の人間社会を観察しているのだ。その妾が、のほほんとした貴様に言ってやる。一度行った失態は、どう足掻いても消すことはできんと!」
「たかだかビーチバレーで社会の厳しさを説かれたくはないわ! そんなにレシーブがしたければ、やればいいだろう!」
ごちゃごちゃと問答するのも億劫になったので、とっとと譲ってやる。試合が終わったら、覚えておれよあの化石鬼。
「これを――受けるのじゃ!」
サーブされたボールが、駄狐のコートから飛んでくる。
っ、まて、あのボールは――!?
「しくじるなよ、現・妾!」
「まて、油断するな馬鹿!」
旧・妾がボールをレシーブ。それは高々と、上昇していく。
――だがその軌道は、妾達のコートの、はるか後方へと向かうものだった。しかも、とてもキツイ角度で。
「ぬおおっ!!」
妾は大急ぎで走り、何とかボールに追いつく。そして、必死の想いで打ち返すことに成功した。
驚いた。あんな回転をするボールが打てるのか!? まるでソ〇ック・ザ・ヘッジホッグが飛んできたのかと思った。
しかし、打ち返すことには成功したのだ。レシーブしてなお回転の残る球だったが、なんと、か――?
跳躍せずに打ち返した、ビーチボール。それは緩い放物線を描くと、ネットに当たって落下してしまった。




