《第693話》『勝機』
「け、結局何もできぬままに7点取られてしもうた――」
互いの点数の合計が、7の倍数となると持ち場の交代となるらしい。その関係で、狂鬼姫共との立ち位置が入れ替わりを迎える。
「ふふん、このまま一方的に点を取って勝利をもぎ取ってやる」
このままでは、奴の言う通り余の敗北になってしまう。悔しいが、この競技においては、あのアホ鬼神に分があるのだ。
勿論、このまま負けを認めるつもりは無い。しかし、戦力的にはおよそ倍の開きがある現在。いったい、どうすればいいと――、
「――?」
――その時、余は気がついた。
「さあ来い駄狐! 諦めてただサーブ打つマシーンと化すがよい!」
余は、球を打つ。先ほど同様、初手では強く叩きこめないため、とても緩い速度だ。現・狂鬼姫の方が、今度は対応するようだ。
ただ、少々打ち方を変えた。大きく放物線を描き、高く、高く、そして緩やかな速度で相手の持ち場へ飛んで行く。
「ハッハッハ! 先ほどよりも格段に緩いぞ! もはや諦め――……、」
「フッ――!」
「――っっ!!?」
直前まで威勢の良かった狂鬼姫。しかし、その気迫がまるで嘘のように、球は彼奴の足元に落下する。
「っ、何をしている樹那佐 呉葉!?」
「み、見えん――っ」
「何?」
幻・狂鬼姫は、余の方へ何かしたのかと言う視線を向けてくる。
しかし、余は術の類など一切使っていない。当然だ。決まり事を違反してしまうのだから。
「ま、まぶしい――」
「っ! まさか――!」
そう、日光。先ほどまで気がつかなかったが、余が今立っている持ち場は、太陽を背にする位置にある。
そして余は、ヤツが球を受け取るであろう位置を予測し、そこに丁度太陽の光が相手の目を刺すであろう場所を狙った。
結果、対応しきれず今のように球を落とした。勿論、多少軌道に変化をつけはしたが――たったそれだけで、狂鬼姫などこの通りだ。
さあ、白面金毛九尾の狐、その娘たる藤原 鳴狐の反撃――とくと見るがいい!




