《第692話》『アルマゲドン』
な、何という破壊力――これが、狂鬼姫の力か……ッ!
「早くサーブを行え!」
「くっ――!」
もう一度、開始打ちを行う。幻・狂鬼姫が軽く上に打ち上げ、現・狂鬼姫が全く同じようにして球を叩きつけてくる。
合間に直したハズの競技場が、またもや破壊される。
「どうした? まるで歯ごたえがないではないか!」
「つまらん、つまらんぞ駄狐共!」
同じことが繰り返され、もう5点取られてしまった。未だ一つとして、受けることが出来ずにいる。狂鬼姫共が調子に乗り始めるのも仕方ないというものだ。
と言うか、あの二人、ほぼ同じ力を持っていると言うのか? 息も妙にぴったり合うし、未だ片方しか強打を行っていないが、秘められた妖気がまるで同じ密度を持っている。
――対するこちら。実を言うと、二体それぞれが、本来の半分程度の力しか持ち合わせていなかったりする。
と言うのも、この分身はまさしく妖力を二つに分けて姿を作っているのであり、言うなれば、一つの容器の水を別の容器に分けているにすぎないのだ。
それでも、片方が考えていることはもう一方に通じているし、だからこそ、戦略的に攻めれば狂鬼姫ごときどうとでも手玉にとれると思っていた。
だが、それは夜貴が用意した相方を向こうが使う前提があってのこと。見たところ同じようなアホ思考で、総力を倍にされてしまえば、こちらが不利になることは目に見えている。
「消しとべぇええええええええええええええええええええええええッッ!!」
「だが、やられてばかりで黙っていられんのう――ッ!」
動きの癖はある程度つかめてきた。余は、球の落ちる場所を推測し、全力で駆ける。
想定通り。球はまさしく余の立っている地点に向かってくる。
向かって――……、
「ぐぇええええええええええええええええええええええっっ!!」
――――――…………、
――――…………、
――死ぬかと、思った。




