《第687話》『反則ではない、戦術だ』
「反則じゃろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!?」
海岸に、狐の大妖怪の叫びが響く。字面だけ見れば人類史上未曽有の大災害であるが、内容自体は恐ろしくしょっぱいモノだ。
「反則じゃろ! 反則じゃろ!? 反則じゃろ!!」
「お、落ち着いて――」
「落ち着けるものか! ほとんど泳いでないじゃろうが、アレ!」
まあ、鳴狐の気持ちも分からなくはない。
何せ呉葉、海に入る直前跳び込みを行ったのだが――その跳び込みと言うのが、砂浜を強く蹴り、一気に目的地の岩までたどり着くと言うモノで。
一応泳ぎはしたのだが、多分その距離はせいぜい5m程度。思いっきり跳んで、いや飛んで、すごい速さで泳ぐ鳴狐の隣を軽々通り過ぎ、着水してぱぱっと進んでゴールしたのでである。
「ふふん、喚くな駄狐」
「狂鬼姫ィ! 貴様アレは反則じゃ! よって水泳勝負、この余の勝ち!」
「ちっちっち、貴様分かっておらんな」
「な、なんじゃと?」
「競泳において、潜水していられる時間には制限がある。波の抵抗を受けないことで、水中の方が早く泳げるのだが、実践行われた際のあまりの速さに禁止された行為になった」
「何が言いたい――?」
「だが、これは禁止されていないのだ――!」
「っ!」
「跳び込みによる距離稼ぎッッ!!」
全力のガッツポーズ。だけど、それはそんな跳躍が人間にできるわけがないからで。
と言うかそもそも、これ公式の競泳ルールに則ってるわけじゃないし!
だから、僕はそれは駄目だと呉葉に――、
「ぐ、ぐぬぬ――反則ではない、だと……悔しいが、そう言うのであれば――っ」
納得しちゃった!?
――納得しちゃったものは、もうしょうがない。僕としては勝ち負けより場を収めたいがための競い合いなので、これ以上何か言うとややこしくしたくない。
なんだか、まだまだ波乱万丈が続きそう――。




