《第681話》『大災害、再び』
「か、かいすい――」
呉葉が、ひきつった顔をしている。
道理で、鳴狐がずぶ濡れなハズだ。低気圧を移動させた際、きっと(規模に対して)少量の海水も次元の裂け目に巻き込んでしまったのだろう。
確か、「駄狐のところへ飛んでけ」的な事言ってた気がするし。
「貴様じゃろ! 妖気の残滓が、まさに貴様のモノじゃった!」
「さ、さて、ななな、なんのことやら」
「この期に及んでしらばっくれる気かえ!? もう我慢ならぬ! 今日と言う今日は本気で叩きのめしてくれるわァ!」
鳴狐の九つの尻尾がぶわりと蠢き、その中から一本の剣が出現。九尾の狐は、その宝剣を片手で掲げ、まっすぐ呉葉へと振り下ろした。
砂浜に叩きつけられた力が、衝撃となって周囲に拡散する。僕も、勢いよく吹っ飛ばされた。
「な、なにする危ないだろうが戯け者!」
「避けるな! どっちが戯けじゃァ!」
砂浜に投げ出される前に、空間転移で移動した呉葉に僕は受け止められながら思う。
――うん、今回のこれに関しては全面的に呉葉が悪い。
「たかだかアイスごときで剣を振り回すな貴様は!」
「貴様は普段から食いなれているかもしれんが、余にとっては一大決心だったのじゃぞ!」
砂浜を足の裏で抉りながら飛び掛かる呉葉。見た目はとても重そうな宝剣を、片手で軽々振り回し対応する鳴狐。
「人間共の文明が作り出した食い物、食らうべきか食らわざるべきか! 三日悩んでようやく踏み切ったというのに! 意図のよくわからん突然現れた海水で流されてしまったのじゃ! 貴様に、そんな余の気持ちが分かるわけがなかろう!」
「貴様こそ、妾が三日悩んで選んだこの水着を危うく台無しにするところだったではないか! アイスなんぞと比べても重要度合の格が違うわ! そんな嗜好品一つでいちいち騒ぐな!」
「んな布切れがなんじゃ!」
「アイスごときでぇッ!」
呉葉の妖気を纏った拳が宝剣を受け止める。
拮抗したところで、鳴狐が九つの尻尾の先端を叩きつけにかかる。
空間転移で背後に回り、至近から巨大な鬼火玉をぶつけようとする呉葉。
それに反応し、振り向きざまに莫大な妖気を纏った剣で斬り返す鳴狐。
迸る妖気。物理的に激しく散る炎。
砂浜は抉れ、灼熱の熱気が辺りを支配し、そして砂嵐が舞い踊る。
折角天変地異が止んだのにこの始末。誰かあの二人止めてェ!




