《第674話》『嵐の後のアバンチュール』
「さぁて、紆余曲折ありはしたが、平和な海岸にたどり着くことが出来たぞ」
「紆余曲折どころか酷道だったけどね――」
いつの間にやらあれほど降りしきっていた雨は止み、雲一つない晴天に。あれほど荒れ狂っていた海も、今や穏やかな波が心地よい音を奏でている。
大雨の影響で湿気は強く残っているし、砂浜は湿っているが、これほどの陽気ならば、すぐにその影響も履けていくだろう。
チョモランマは片付けさせました。責任持って。
「先ほどまで台風だったこともあって、今やこの海岸は妾たちの貸し切りも同然だ! ひと夏のアバンチュールを楽しもうではないか!」
「そ、それはいいんだけど――僕、まだ水着に着替えてないんだけど」
「台風のせいか、海の家は畳まれている、か。ヒトはそう出歩いていないとしても、表で夫の全裸を曝してしまうのは、妻である妾としては忍びない」
「どうしよう?」
「一瞬空間転移で自宅に戻って――とも思ったが、それは風情が無くてつまらんしな。さて、どうするか――そうだ」
そうすると、呉葉はまたもや指先を虚空で動かした。
「ちょっと自宅から物干しざお持ってきた」
「いとも簡単そうに!」
「あとはちょいちょいっと、バスタオルを取り寄せて、だ」
本人の宣言通り、タオルを空間の裂け目から取り出してはてきぱきとかけていく。
そうして――あっという間にカーテンが出来上がってしまった。
「なんか、だんだんドラ〇もんじみてきた気がするよ――」
「妾こそがドラえも――くれえもんだっ!」
楽しそうな呉葉に苦笑いする僕。折角用意してくれたので、早速水着(これも空間転移――と言うか、次元の狭間に仕舞っておいたらしいものを出してくれた)に着替えることにする。
「――手伝ってやろうか?」
「覗かないでよ!?」




