《第672話》『悪化の一途!』
「暑い! と言うか熱い! 死ぬ! 焼け死ぬ!」
「主に普通の人間の僕がね!?」
異常気象の真っただ中。このままでは呉葉や僕ばかりではない。この海岸沿いに存在する家々までもが、確実に被害にあいかねない!
「か、かくなる上は――!」
「!? もうやめて呉葉!」
「止めるな! このままでは本気で取り返しのつかんことになるぞ!」
「どんどん事態が悪化してることを理解して!」
「三度目の正直と言うではないか!」
「二度あることは三度あるとも言うよね!」
「やっかましいわいぬおおぉぉーーッ!!」
僕が止めるのも聞かず、またもや呉葉は空間転移を行使したらしい。せわしなく動く指と、迸る妖気がそれを示している。
「――っ、ハァ、ハァ……これで、何とかなるのではないか?」
「こ、今度は何したの――? 未だに熱風は吹いてるけど」
「ふふっ、聞いて驚け」
不敵な笑みが、不安しか感じさせない。
「南極の氷の一部を超高気圧の真っただ中に放り込んで冷やしてやった!」
「馬鹿じゃない!?」
やっちまいやがりましたよこのヒト!
「ば、馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 熱けりゃ冷やして当然だろう!?」
「冷やすのはいいよ。それで何とかなるかどうかは、そこまで物理を知ってるわけじゃないから分からないし、この熱風がどうにかなるかもわからないけど。その心意気と意識は、とっても正しいモノだってのは分かる」
心なしか、海の方から吹いてくる風が優しくなった気がした。けれども、地平線の彼方に、何か壁のようなモノが見える。
「――でも、氷って言うのは解けたら水になるよね?」
「馬鹿にする極みにも等しい発言だぞ! 言われるまでもなく分かっているわ!」
「じゃあ、あれ見てよ」
「うん?」
僕は、海岸の彼方を指さした。
今まさに迫りくる、巨大な津波を。




