《第670話》『狂鬼姫 VS 台風』
「くぅ、なんて手強い大自然なんだ――っ!」
「どうして勝てると思ったの! そんなのいいから、早く建物内に!」
海に入ってもいないのに、既に僕らは全身びしょびしょだ。
夏場とは言え、この雨のせいで気温が下がってしまっているのだ。そこに風が吹けば、寒くなろうと言うモノ。
ぶっちゃけ、風邪ひきそうなのである。
「ええい、この程度で諦めてなるものか!」
「何が君をそこまで駆り立ててるの!? いっそ室内プールでいいじゃない!?」
「いいや海だ! 海であることに、意味があるのだぁ!」
意味の分からない意地を張って居る状況ではないと思うんだけど!
「第一の手が通じなければ第二の手! 台風が吹き飛ばせぬと言うのならば、他の場所へと転移させるまで!」
「台風ってそう言う類の現象じゃないから!?」
「つべこべうるさーい! 確か、こう、この、あの当たりだった、な――っ!」
何もない空中で、豪雨に打たれながら、操り人形を扱うかのように指を動かす呉葉。
「飛んでけ、駄狐の住処あたりに!」
「とんでもないとばっちり!」
呉葉が腕をブンと振るうと、先ほどまで海の方へと吹き付けていた風に、変化が生じた。
変化させる、と言う意味では彼女の目論見通りだ。
「よし、これで――……、」
だが、その変化はより猛風が吹くと言う形の変化だった。
「!?」
「な、何だ!?」
僕は本能的にその場――普段なら砂浜が見えているハズの堤防の上で伏せて、飛ばされないようにする。力はあれど体重も軽い呉葉もまた、同じように身を縮こまらせた。
「な、なぜだァッ!!」
「具体的に何したの!?」
猛スピードで駆け抜ける風が耳をうるさく叩く。僕は声を張り上げ、文句も同然と言った様子で呉葉に尋ねた。
「た、ただ、台風を形成している低気圧をそっくり駄狐のところへと移動させただけだァ!」
「っ、それって要するに、低気圧を形成していた空気を無くして、真空の超低気圧に変わっただけじゃないの!?」
「( ゜Д゜)!?」
っ、呉葉の大馬鹿ああああああああああああああああああああああああ




