《第668話》『夏だ!』
「夜貴。確か、明後日から休みだったろう?」
「え、そうだけど――?」
出勤前に朝食(ごはんにみそ汁、お魚の切り身にほうれんそうのおひたし)をいただいていると、同じように向かい合って食べている呉葉から、確認をされた。
こういう時、後に続く言葉は大抵決まっている。
「海へ行こう」
「…………」
「…………」
「と、唐突過ぎない?」
「サプライズと言え、サプライズと」
彼女はその言葉の意味を少しはき違えている気がする。「サプライズ」とは、確かに驚かし、いわゆる前触れの無い唐突な行為である側面を持っている。
けれども、何でもかんでもそれが当てはまるわけでは――決して、ない。
「なんだ、なんぞ用事か何かあるのか? ――はっ! まさか浮気!?」
「分かってて言ってるよねぇ! いや、予定的には大丈夫だけどさ!」
「ふぅ、妾の夜貴が、誰ぞにでも誑かされたのかと思ったぞ。で、その言い方だと、何か問題があったりするのか?」
「いや、海と言うことは――要するに、泳ぐんでしょ?」
「水着なら、無かったから夜貴に似合いそうなモノを購入しておいたぞ」
「いつの間に! ――いや、えっと、そうじゃなくって、ね?」
正直、機会が無かったから、とも言える。けれども、それを言うのはなんとなく、は、恥ずかしい、と、もうします、か。
「お、」
「お?」
「泳げないんだ、僕――」




