《第663話》『クラッシュ』
案の定、予想した通りだった。妾は熱くなりすぎ状況を見誤った愚か者を、勢い付けて外側から内側に押し込んでやる。
背水溝の無いレーシングタイヤで。今の路面の濡れ方で。そのコーナリングは明らかに無謀な事は、走ることを理解しているハズのヤツには分かっているハズだろうに。
かなり勢いよく切り込んだために、接触した箇所からガツンと言う音と共に強い衝撃が響いてくる。
黒のR32はこちらが与えた衝撃で内側に進路を変更。アスファルトの上で踏ん張るグリップが無いのか、斜めを向きながら、コーナー出口側の芝生へと突っ込んでいく。
先ほどの角度のまま突っ込むよりも幾分か勢いが殺されているハズなので、大分とマシになっただろう。
……一方の妾。こちらは、ヤツよりも状況が危険だった。
ストレートでのスピードを殺しきれぬまま、ほぼ真正面から芝生に突っ込んでいく。
芝生のその向こうにはガードレール。緩やかなコーナー故、垂直に突っ込むことはないが。それでも、とんでもない速度で迫りくるそれは、まさに壁のようだ。
衝撃。右フロントから車体全体に及ぶ、物理的なブレーキの感覚。
――妾と牙跳羅は、空中で宙返りした。




