《第660話》『命を持った夢』
人間は、どうしてそうも簡単に死ねるのだろう。
灼熱の業火の中、金属の車体が焦げる。
ガレージ内の空気の大半を燃やし尽くしながらも、
まるで夢を追う心のように、その炎は消え切らない。
しかし、それは決してそんな希望の熱では決してない。
むしろそれは、全てを終わらせる死の熱さ。
夢も、希望も、何もかもを灰に変える、終焉の焔。
ガレージの、細い窓のガラスが割れる。
ほぼ真空状態だったガレージ内に、急速に空気が入り込む。
唐突に増した酸素が、庫内の熱の影響を受けて急激に燃焼を始める。
――ガレージが、爆発する。
そこにあったモノをことごとく壊し尽くし、地獄の中に残るモノは。夢を追う心は――、
それを持っていた人間は死んでしまった。
子供っぽさを持ちながらも、その夢に本気となり、熱さを湛えていたその魂。
そんな想いを持ちながらも、死んでしまった。
人間は、どうしてそうも簡単に死ねるのだろう。夢も叶わぬまま。叶えられぬまま。ただ身体が消し炭になったくらいで。
俺は――死なない。「絶対」である、と言う夢のため。この身が滅びようとも、死んでたまるものか。




