《第六十五話》『追憶の呉葉』
「行きたいところを最初に決めろ! どういうところに行きたいとか、そう言うことはないのか?」
「そうは言われてもだな、妾もどこに何があるのやら――」
割と無駄な代金を払ってバスから降り、近場の喫茶店で僕達は話しあう。
――なお、二人の呉葉が選んだのはコーヒーとチーズケーキだった。やっぱり、飲食の好みは二人とも同じのようである。
「でも、いくらか単語は知ってるよね? 街へ来た時の呉葉がそうだったし」
「まあ、パソコンで世間の情報は集めてたからな。どうだ?」
「確かにその通りではあるのだが――どれをとっても普通に落ち着いてしまう気がしてツマラン」
「普通でいいじゃん!?」
「いやいや、個性と言うのは重要だぞ夜貴」
「さて、どこへ行ったものか――」
幻影の呉葉は顎に手を当て思考を巡らしている。そこに、どこかワクワクした様子があるのが初々しく、またもや僕は懐かしい気分に――、
「ようし、ラブホテル行こう」
「「なんでだよ(だ)!?」」
――なんだかこの呉葉、そういう発言多くない?
「――アレか、こいつは夜貴の頭から引っ張り出された存在なのだから、その責任は夜貴にあるというわけなのだな」
「――え?」
「夜貴ァ! お前の頭の中の妾はこれほど淫乱なのかァ!」
「そうは言いつつも数々の行為を考えればある意味妥当だということに今気が付いたよ!?」
「くははっ! 仲が良いようでなによりだ!」
そんな風に指摘されると、それはそれで恥ずかしいんだけど――。
「む、そうだ」
と、そこで幻影の呉葉が手をポンと叩いた。
「行きたいところ、決まったぞ」




