《第656話》『強まる雨音』
前方の白いテールが、ヴィッパーマンの奥へと消えてゆく。俺は、それをアクセル全開で追いかける。
テールスライドさせながら駆け上がり、次の下った左、エシュバッハへスローイン・ファースト・アウト。開けた視界の斜め下方に、鬼神の車両が次の右を旋回しているのが見える。
慣性を利用し、右コーナー、ブリュンヒェン一つ目をドリフトで旋回。短い直線の後に、もう一つ右が来るのがこのコーナーの特徴だ。
オーバースピードに気を付けつつ攻略し、左コーナーアイスクルフェ。連続した次の緩い角度の左右に対応できるようここもスローイン・ファースト・アウトで侵入する。
ステアリング操作で振り回される横Gと共に理想的な最短ルートを抜けた後にやってくるのが、ジャンピングポイントだ。
ここを跳んだ後、息もつかせぬ速さで右コーナー、シュプルングヒューゲルが来る。難易度が高く、向こう側に砂が敷かれているとはいえ、いや、だからこそ前から突っ込めば再起不能になる。
――目の前の白が、着地点で大きく後ろを滑らせた。
考えられる理由はいくつかあるが――おそらくあれは、この半分濡れた路面に足を取られたのだろう。
思えば、雨脚が先ほどから強くなってきている。ぽつ、ぽつ、としたものだったのが、今では大粒となり、まるで矢でも降ってきているかのようだ。
前を行く車が滑った地点を避けながら慎重にジャンピングポイント、そしてコーナーにアプローチする。
着地の衝撃、そしてコーナリング時の横Gを感じつつ、続けてくる右、そして左を攻略、斜面を登る。
ブラインド状になって見えなかったその先に広がるのは、プランツガルテンと呼ばれる緩やかな連続コーナー地帯。最初の上った地点以外はアクセル全開で走るポイントだ。
先ほどのミスのためか。心なしか、R35のテールが近づいている。
この距離ならば、射程範囲内だ。しばらくの後に現れる、このコース最長のストレート。そこで、仕掛けられる、か―――?




