《第653話》『霞んでゆくあの日』
ここでもダメなら次だ――ッ! 次の高速右コーナー、クロスタータルにて今度こそ行く!
だが、今度は追い抜く前に相手に張り付くことすら適わなかった。しかも、前輪に荷重を移しきれずにアンダーステア。前輪がグリップを発揮しきれず、曲がれない。
右側のタイヤが、芝生に乗り上げる。
……――ッ、ッ、
左右のタイヤでの接地面における摩擦の大きな違いから、さらに車体が芝生の奥へと侵入してゆく。そのすぐ奥にはガードレール。高速コーナー故にハイスピードでクロスタータルに突っ込んでいるため、このまま行けばクラッシュしてしまうだろう。
仕方なく、俺はアクセルを緩め、微調整することで立て直しにかかった。
ガリッと、左フロントが軽く擦れ、車体がコースを向く。
さらに左テールがガードレールを蹴る。
後ろのタイヤがややスライドしながらも、安定を始める。
――前輪がコースに戻り、俺はほっと息を吐く。
頭が痺れ、真っ白になるような瞬間だった。ステアリングで体制を無意識に調整しながら、まさしくヒヤッとなる状況だったと言わざるを得ない。再起不能にならなかったのはラッキーだった。
今のミスのせいか、少し距離が空いてしまった。鬼ババァは次の低速右、シュタイルシュトレッケから姿を晦ませている最中だ。
ヘアピンに近い形状の複合コーナーであるため、内側のガードレールと木のせいで、離されると見えなくなってしまう。
何をしているんだ俺は。ブチ抜かねばならないのに、どうしてこんなミスをする!?
コースアウトしている時ではないのだ。そんな暇はない。それなのに――あんな遊びでしか走ることを知らないヤツに、どうして離される!?
どうして、俺が――勝利するために生まれたこの俺が、苦い土の味を感じなければならない!?




