《第644話》『逆襲の鬼神』
……――っ!?
後方から速度を上げて迫りくる白。その先はスウェーデンクロイツ。高いスピードでここまで来た車両を迎える左高速コーナーである。
しかしながら、今までの緩やかな地点と違い、アクセル全開で抜けることはできない。瞬間的にブレーキをかけ、前輪に荷重を乗せねばならない程度の操作が必要になる。
即ち、このコーナーは本来、アウト・イン・アウトで抜けるのがセオリーである。
しかし、それに従いコースの右端に寄ると、左側が一台分空いてしまう。そうすれば、車体をイン側にねじ込まれてしまう。
このスピードでは、路面の状態もあって下手な操作が文字通り命取り。しかも少し手前が車体の浮きやすい構造であるため、ギリギリで中央からアウト側へ寄るのも難しい。
俺は――道の中央から、スウェーデンクロイツのイン側へと仕掛ける。
230km/h弱の速度でコーナーを疾走。センターから、イン、そしてアウトへと抜けるライン。
――しかし後方のR35は、案の定理想的なラインでコーナーをクリアする。あちらの方が、数キロスピードが乗っている。
そして、コーナリングをスムーズに終えた鬼神。そいつはそのまま、俺の左リアにその鼻先をねじ込んでくる。
っ、隠居してるんならおとなしくしてろよ――ッ!
次は中速の右、アーレムベルグ。ヘアピンのような形状の、中低速コーナーだ。
俺はコースの右――次のコーナーに対してイン側の位置。
本来、イン側の方が優位なのは間違いない。ラインは苦しくなるが、それは向こうも同じ。
――だが、このコースのその先は……ッ!
R35のフロントが俺のテールの位置に達したすぐのところで、先に俺が。コンマ秒の差で向こうがブレーキング。減速しながら、しかし白はその間に俺の車体の半分程までフロントを差し込んでくる。
そして右へ旋回。水が上から下へ落ちるかのごとく当然に、俺と鬼神との間で縮まっていた差が再び広がる。
しかし、それも一瞬のこと。コーナーのアウト側で立ち上がる俺のすぐ後を、はるかに高いスピードで白が猛追してくる。
立ち上がり重視。スローイン・ファーストアウト。クリッピングポイントを奥に取り、コーナー速度を犠牲に、ストレートスピードを稼ぐライン取り。
その行動をヤツがとったのには意味がある。その先はフックスレーレ。下りをアクセル全開で駆け抜ける、ほとんどストレートと変わりのない猛加速ゾーン。
アーレムベルグ出口。俺の右側に、鬼神のR35が躍り出る。




