《第639話》『ある意味、調子に乗った』
「――っ!?」
背後より伝わってきた振動に、妾はビクリとする。
後ろから突っつかれた!? ボディに傷が付くほどの強い勢いではないが、余裕をこいたようなそれが逆に、こちらへの「挑発」を明確にさせる。
「妾が遅いと――そう言いたいのか……ッ!」
こちらを逆上させる、露骨な煽り。真面目な戦いならば、ここは平常心を保つべく冷静になろうと努めるだろう。
だが、これはお祭り。祭りは喧嘩の華。真面目は真面目なところまで取っておく。即ち、そっちがその気なら――、
「いいだろう、そこまで妾を怒らせたいなら、受けて立ってやるッッ!!」
つつかれた低速コーナー、もといフォードの出口の次は左高速コーナー。続いて低速右のダンロップコーナーだ。
ギリギリまでブレーキングを遅らせ、コーナーへと突っ込む。侵入速度は大きく落とすことになり、コーナリングスピードを犠牲にする。
代わりに、コーナーの奥でターンするように旋回。コーナーのクリッピングポイントを奥にライン取りするように抜けることで、より長くアクセルを踏み込める形へと持って行ったのだ。つまり、単純な脱出速度はこちらが上になる。
次は長めのストレートになる。車の加速能力に任せて突き放し――、
「――っ!?」
想定に反し、車が思い描いたラインよりも膨らんでゆく。その原因はすぐに分かった。
僅かコンマ数秒ではあるが――かっとなって早めにアクセルを踏み過ぎたのだ。
それに気がつくのに様々な思考を通り過ぎたため、反応が遅れる。アクセルを戻した時にはすでに遅し、赤と白の縁石外側、砂の方へと――、
「っ、っ、」
リアタイヤが軽く踏み入れはしたが、大参事とはならずコースに戻る。
――だが、大きく失速してしまった。それでもマイナスを取り戻そうと、アクセルを踏み込むが……、
「――っ、ぐ、」
妾とは異なりミスをしなかった冀羅が、右側に躍り出る。
二台が、横に並ぶ――、




