《第六十三》『両手に花』
「全く情けない! 情けないと言ったらありゃしない!」
僕が目を覚ますなり、幻影の呉葉はあからさまに大きなため息をついて見せた。
いつの間にかベッドに運ばれているあたり、やはり気を失っていたのだろう。
「なあ、未来の妾よ。お前の夫はいつもこうなのか?」
「まことに情けないことながら、過剰な興奮でいつも鼻血を噴くな」
「ひ、ヒドイよ二人とも――! あんなことになるのは当たり前じゃないか……」
女の子にあんなふうに密着されて、鼻血を噴かない男はきっといないだろう。いや、そうに違いない。昆虫の交尾でオスが命がけであるのと同じように、人間の男も喰われこそしないが、命の危機に瀕すのはきっと当然なのだ。
「しかし、これでは跡継ぎを作ることができぬ。果たしてどうすべきか――」
「べ、別に、無理に作ろうとしなくてもいいんじゃ――」
「妾には時間がそれ程残されてはおらぬのだぞ? この身がいつ消えてしまうのかもわからぬというのに」
「そ、それは、えっと、そうなんだろうけど――」
「――ふぅむ、こうなれば仕方ない」
「なんだ、何を思いついた? 妾の経験則から、碌な思い付きでないというのは――」
「適当な男を外で捕まえて種を植えてもらおう」
「それはやめてっ!?」
いったい何を言っているのかこの幻影。いや、確かに元々思い入れの薄い対象に対してはあまり頓着しない傾向にあるけどさ!?
――と、僕がそんな気持ちを込めて言うと、幻影の呉葉はにやりと笑った。
「くふふっ、小娘のようにうぶでも、男としての独占欲はしっかりとあるようだな」
「えっ!? あ、いや、その――」
「ならば、こうしよう」
「え――?」
「妾達『二人の呉葉』を連れて、今からデートに赴くのだ!」




