《第634話》『実際のところは、割とお祭り好きな妖怪の集まりなので、好きで出している。らしい。です』
「ま、今は考えたところで答えは出んだろう。妾も、そろそろコースに飛び出すとするか」
そう言って呉葉は、ピットガレージに格納されている自身の車へと向かっていく。相変わらず、(みためは)小柄で華奢な彼女にはやや釣り合わない、パワフルな外見をしている。
「――ところで思ったんだけどさ」
「なんだ?」
車に乗り込んだ呉葉は、ヘルメットと手袋を装着し始める。テレビで見るような、レーサーがこれから走りに行くぞ! と言う出で立ち。
――と言うか、いつの間にか来ている服も、レーシングスーツ? になっている。白を基調とした、耐火性素材で作られた衣服だ。
「よく知らない僕でも、レースってタイヤを消耗することは知ってるし、それにその服とか、ヘルメットも、ウチには置いてなかったよね」
「うむ」
「――もしかして、ウチのお金……」
「おいおい、流石の妾も、無断で我が家の貯金を崩したりはせんぞ」
勝手に車買ったり、気がついたら高そうな品物が自宅に置かれていることがあると言うのに、どの口が仰るのだろうか? しかも大抵結果は謝りに来る結果になるのに。
「み、見るな、そんな目でみるな――っ! 無言の抗議をやめてくれっ!」
「だって、ねぇ――」
「止むぬ止まれぬ事情で今までは浪費があった、それは認めよう――! だが、妾とて一介の妻! 夫に無断で、その稼ぎを使う事は一切ないぞ! 今度のこれもそうだ!」
「――まあいいや。じゃあ、今回の色々必要そうなお金はどこから?」
「零坐! 夜貴に説明してやってくれ!」
「はい、呉葉様」
ピットガレージの奥の影から、見知った老人がぬっと姿を現した。
「――今まで、どこに?」
「出番が来るまで、裏方の仕事を」
「零坐さんも大変ですね――」
「まったくその通り。呉葉様には振り回されております」
「おい貴様、最近妾への敬いが足りていないのではないか?」
「以前も仰られていましたが、滅相もございません――! 此度の資金ですが、かなり突然のことであったため、収集に大変難儀いたしましたが、無事、集金を完了した次第であります」
「集金!?」
「ぶっちゃけ、呉葉様のかつあげのようなモノなのだが」
「呉葉――」
僕は呉葉を、軽蔑した目で見る。いくら長たる鬼神だったとはいえ、それには僕もドン引きだ。
「なんでだ! 妾そこまで横暴ではないぞ!」
「あなた様が『お金が要る』と言えばそうなるのは明白でしょうに――」
「ちがうもん! 妾お金貸してと言う軽いノリのつもりだもん!」
そんな、かわい子ぶられましても。――かわいいけど。




