《第626話》『譲れない分野』
「何が、言いてぇ――?」
「さてな? 己で考えてみよ」
呉葉は腕を組み、地面に突っ伏したままの綺羅を見下ろしている。
その姿は、まるで教官か何かのよう。かつて妖怪たちの頂点に君臨していた鬼神は、退いたと自称しつつもやはりその面影を残している。
「――だが、俺の得意分野で、って、」
しかし冀羅は、どこか不満げ。
元々、プライドの高い一面があったのだろう。それがもしかすると、彼本来の得意分野なるもので戦いを挑ませることを躊躇させているかもしれない。
きっと、呉葉も同じように感じたのかもしれない。すると彼女は、
「どうした? それですら、妾には勝てそうにないか?」
と、誰がどう見ても分かりやすい挑発をした。
「な、何ィ――!?」
「そう言う事であろう? 躊躇するとはすなわち、やる前から結果が予想ついてしまっているから。そこに負けた事実がついてしまえば、もはや二度と、立ち直ることはできまい」
「っ!」
「まあ、仕方あるまい。誰であれ、敗北と言うモノは避けたいからな。それが得意分野となれば、なおさらだ。よいよい。今妾の言ったことは、聞かなかったことに――、」
「ふざけんなッ! テメェなんぞに、誰が負けっかよッッ!!」
「ふっ――」
「いいぜ、そこまで言うなら、俺様の得意分野でてめぇに勝負をかけてやるぜ! この俺が本気で、しかも俺の分野でやったら、どう足掻いても勝てないことを教えてやるッ!」
「ほほう――で、その分野とはなんだ?」
「レースに決まってんだろうがッ!」




